ひとまわり、それ以上の恋
「なんか、いいね」

 ……なんかいいねって?
 空気を読めていない私に、沢木さんは少し垂れ目の甘い目元を緩ませる。

「可愛いんだね」

いやらしくもなくさらっと言われて、私は返す言葉なく、頬が紅潮していくのを感じるだけだった。

 ……可愛い。というセリフをさらっと言える男の人はあんまり信用しちゃダメだ。きっと沢木さんみたいな人だったら常套句なんだろうな。

「ごめんなさい。男の人に慣れてないんです」

「へぇ。なんかそれも、妙にそそる誘い文句だよね」

「え、あの、ちが……一応、兄もいますし、ただ、男の人と付き合ったことが……ないだけで」

 慌てて訂正する。顔が妙に熱い。男の人を意識しただけで、こうなってしまうんだから困る。余計なことを口走ってしまった。

「へぇ、いいこと聞いた。だからさ、その初めて……っていうのがいいんじゃない」

 獲物に狙いを定めるような視線に、私は硬直した。

「そんなつもりじゃ」

「はは、ごめん。新鮮だな、やっぱり新人は。ますます興味が湧いたよ」

 からかわれたのかな。恥ずかしい。沢木さんみたいな男前なら、女の子は誘われてしまうんだろうな。

 けど私は……同じセリフを言われるなら、市ヶ谷さんに言われたい。
 可愛い……って。撫でられたい。

 なんて、何を考えてるんだろう。
 疲れ切った脳みそがとうとう溶けてしまってるのかも。
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