ひとまわり、それ以上の恋
「あ、あの……」

 何か話をしなくては……と背中に汗を掻きながら言葉を選んでいると、市ヶ谷さんは気の抜けたようなため息をついた。

「モデルの件は、また明日の朝にしよう」

「明日……ですか?」

 肩透かしを食らって、私はランジェリーをテーブルに戻す。理由を窺っていると、市ヶ谷さんの色素の薄い瞳が試すように私を見つめていた。

「うん。そんな熱っぽい目をした君に、着せられないなって思ったから」

 何か見透かされてる気がして落ち着かない。それとも、またからかわれてる?

「からかったわけじゃない。君が僕に言ったことと同じだよ。欲情するのに年齢は関係ない――ってこと」

 市ヶ谷さんの目元を見れば分かる。からかっていないと言いながら、私の反応を見てるんだ。

 本当に欲情するのは……さっき一緒にいた大人の女性だけ。分かりきってることなのに。



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