ひとまわり、それ以上の恋
 ……私は子供だ。どうしたって気を引くことなんて出来ないのに、沢木さんとのこと良いんじゃないなんて言われて、ショック受けたからって、八つ当たりするなんて。ホント子どもだ。

 だけど少しでいいから、女として見られたい。可愛いとか綺麗だって言わせたい。

 十分くらいでタクシーがやってきて、大理石の玄関に並べたプラダのパンプスに足を入れる。もうこれで二度目……だけど私の気持ちは一度目よりもずっと先を進んでる。

「市ヶ谷さん……」

「うん?」

「私、娘なんかじゃないですから。〝欲情するのに年齢は関係ない〟ですから」

 私、市ヶ谷さんに欲情してるよ? 市ヶ谷さんは冗談や大人の切り札でそう言っただけかもしれないけど。私は違うよ。

「なら、なおさら帰さないと。悪い上司になったら困るだろう」

 頭をポンポンと撫でられて、私の胸はぎゅっと詰まった。

「また明日」

 やさしい声色に宥められて、玄関のドアから離れる。

「おやすみなさい」


 やっぱり……もう少し傍にいたかったかもしれない。

 悪い上司になってもらったって、構わないから。


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