ひとまわり、それ以上の恋
◆8、悪い大人(透Side)
もぎたての桃のように頬を薄紅色に染めて、熱っぽく潤んだ瞳で僕に訴えかける。なんて身体に毒なんだろう、この光景は。
彼女が帰ったあとで僕は、肩の荷を下ろすように長いため息を吐いた。
四十になる男が彼女の気持ちに気づかない程、鈍感であるはずがない。
さりげなくかわすことも必要だが、彼女には分かりやすいように伝えた方が効果はあるみたいだ。
揶揄られているとでも思ったのだろう。彼女は猫のように丸い瞳を向け、不機嫌そうに眉をきゅっと寄せて……拗ねていたみたいだけど。
それがずっと昔に見た顔にだぶって見えて、僕の胸になにか懐かしいものがこみ上げた。