ひとまわり、それ以上の恋
 僕は秘書課に寄せたらどうだろうか、と提案した。

 今季、商品開発プロジェクトの引率を任されている僕は、彼女の群を抜いた才能に惹かれるものがあった。彼女の才能に触れれば何かまあたらしいヒントが得られることもあるかもしれない。

 毎年プライマリーでは新入社員から秘書課へ配属させることはないのだが、今年は人員が欠けるので充当させる予定でいたしまだ決定していなかったのでちょうどよかった。

 彼女と接してみて好感のもてる印象でもあった。矢崎は躊躇っていたが、責任は僕が持つことを約束した。

 しかし、彼女を選任してから僕は重大なことに気づいてしまった。彼女には言えないが、個人的な事情で深く後悔していた。

 どうやら彼女は僕が意識していない内に僕に恋をしてしまっているようだし、冗談すら通じないまじめで可愛らしい子である。

 彼女の涙に触れたとき、僕は初めて彼女の事情を知った。父親が中学生の時に亡くなっているのだという。

 僕はそれを知ってもしかしたら……と気づいた。菊池、という姓はありふれているが、彼女に好奇心が湧くのは相応の理由があった。


 つまり導かれて僕は、彼女を見つけてしまったのだ。
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