ひとまわり、それ以上の恋
「だって、あなたがなんだか沈んでるみたいだから、言うタイミングを逃すところだったのよ」

「おめでとう。良かったね」

「ありがとう。一人目のときはあれほど授からなくて治療だって苦労したのに……不思議なものね」

 彼女は不妊治療をしていて、それがうまくいかず、婚約者の彼とぎくしゃくしていた時期があった。

 僕は彼女の傍にいて……よく相談に乗っていた。

「欲しいと望むものほど、手に入らないものなのかもしれない。縁というのは授かりものだからね。感謝しないと」

 本当におめでとう、と告げると、返ってくるミシェルの声はおだやかな幸せに満ちていた。

 ミシェルとはノッティングヒルのマーケットによく行った。彼女は見た目からきつい印象に見られることが多く誤解されやすいが、仕事は有能だったし細やかな気配りのできる女性だ。

 彼女のプライベートを知れば、意外にも磊落《らいらく》な性格であったし、その反面、小さなソバカスを気にしたりもする、可愛らしい女性だった。僕は彼女のそういった機微に触れ、惹かれていった。


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