ひとまわり、それ以上の恋
「あぁ、ごめん。せっかく起こしにきてくれたのにね」
咄嗟に、僕が謝ると、頬をふくらませ(実際にはふくらんでいないし)唇を尖らせて(実際には尖らせてはいないが)、じぃっと上目遣いで僕を非難していた。
「ちょうど昔馴染みからの電話で起こされた。でも、シャワーを浴びたてで、上半身裸、よりはいいだろう?」
彼女の頬はますます桃のように赤くなった。
「ハーブティお淹れして待っています」
反抗期の娘を見ている気分で、僕はやれやれとバスルームに向かった。
昨晩のことも、何か気にしているのかどうか。
あと一月もすれば、彼女の父親の命日がやってくる。
僕は、懺悔をしなくてはならないようなことは、してはいけない。
いや、既に僕はもう……何度も懺悔をしているわけで……。
彼女にはその事実を知られてはいけない。
僕は彼女が思っているような理想の父親像ではない。
ただの悪い大人《おとこ》だ。