ひとまわり、それ以上の恋

 販売部のチーフだという嵯峨野さんはショップのアドバイザーを務めて長いらしい。私はさっそくモデルとなり、鏡を前にしてブラジャーがあてがわれていくのを次から次へと目で追っていた。

 市ヶ谷さんはどんな想いでデザイナーさんと一緒にこのブランド名を立案したのだろう。

 誘うブラシリーズに新しく追加されたラインナップを見て、うっとりとため息。レース生地一つからディティールに至るまで女心のツボを得ている。
 
 例えるのなら親戚の家に生まれたばかりの赤ちゃんを見せてもらったときのような甘く綻ぶような気持ち。天使にでも出逢ってしまったかのようにハートに火をつけられてしまった。

 大好きなランジェリーの山に囲まれて至福のときを感じるばかりでなく、市ヶ谷さんが企画からデザインまで携わったと考えて、私の胸はますますときめくばかり。

「デザイナーさんにも会ってみたい。お話してみたい」

 You.S……と筆記体で書かれたサイン。ゆうという字はどんな? そしてどんな女性なのだろう。

 好奇心を刺激され、夢がどんどん膨れ上がっていく。いつか私もスケッチブックに書かれた味気ないデザインが、こんな風に形になることがあったらいいな……。

 ……なんて夢見心地でいた私を戒めるかのように、グイグイと贅肉を捻られる。お疲れモードの胃から何かぐえっと吐きだしそうになった……冗談じゃなく。

「うっぐっ……っ」

 この不気味な声を抑えたくても……どうしたってムリ!

 まるで格闘技? 押さえ込まれて、胸を鷲掴みされ、ムニュムニュと形を変えられる。いやっ、もう、そんなとこまでダメ! ビクッと反応してしまって一人で恥ずかしがっても、相手はちっとも動じることなく、避けようなどという遠慮もない。
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