ひとまわり、それ以上の恋
「少しポーズをとってもらえますか? 今季のカタログみたいに」
「ポーズ……は、恥ずかしい」

 下着のカタログとか通販のサンプルに出てるモデルさんは、ほんとうに可愛くてキレイでいやらしさが全くない。一方でセクシーランジェリー部門を兼ねている誘うブラシリーズは…というと、だいぶ艶めかしいポージングの数々。

「わ、私はどれを参考にしたらいいですか?」
「もちろん、好きな人に見られたい……と思うポーズを」

 嵯峨野さんはにこやかに私を見上げて、ランジェリーを一枚ずつ並べて見せた。女性同士なんだから同業者なんだから恥らうことなんてないよね。

 でも、好きな人に見られたい、というのは……さっきまで市ヶ谷さんと一緒にいたばかりだから妙に意識してしまってできない。

「冗談ですよ。今のはイジワルです」
「えっ?」

 肩透かしを食らって、胸元を押さえると、嵯峨野さんはクスクスと笑った。

「初めてのことですから。市ヶ谷副社長のところに出張にくるのは。可愛がられていらっしゃるんですね、羨ましいです」

「あの……」

「うちの販売部門では、市ヶ谷さんに憧れる人が多くいるんですよ。エリアマネージャーと一緒に来店されるときの女子の気合いの入り方といったらないです」

 ……なんとなく納得。想像がつく。

「今回の担当の話でもだいぶ揉めました。専任スタッフとしての経歴上、私が来ることになって、どんな人がモデルなのか見てきてって大騒ぎ。菊池さんを選んだことは正解ですね。なるほどって思いましたから」

 嵯峨野さんはこちらを一瞥して、十種類あるコレクションの中から一枚ずつ引っ張りだす。Cカップで並べていたのでDカップを並べ直していた。
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