ひとまわり、それ以上の恋
私がふくれっ面を浮かべているのを察したのか、市ヶ谷さんは笑う。
「ちょうど君のスタイルに合ってる。モデルになったら第一号をもらえるってことだよ?」
まるでご褒美を与えてやるぞ、みたいじゃない。
「私は、モデルよりも商品について追及していきたいです。デザイナーさんにも会ってお話窺ってみたい。それとは別にわがままを言うなら、誘うときは……好きな人にそうしたいですし。ほら、私じゃなくたって、モデルさんはたくさんいるんですから」
まともな意見を言い返せたことに、私は内心グッドジョブと自分を褒めて、ちらと市ヶ谷さんを見る。
「そっか。残念だな。でも分かったよ。君の意見はもっともだ。ちゃんと尊重する」
ホッと胸を撫で下ろして、私はカタログを手にとった。
「市ヶ谷さんは、どれが一番好きですか?」
「やっぱり、今、君が着てるそれかな。メインでPRしていきたいと思ってるところだよ」
市ヶ谷さんの視線が胸元にすべりおちていき、ドキリとする。
さっき……心の中でしか聞けなかったこと、こんな風に聞いても構わない?
早鐘を打っていく鼓動が、私の気持ちを逸らせる。
「……お世辞はいいんです。もしも私でも、こんな風にちゃんと誘ったら、欲情してくれますか?」
市ヶ谷さんはカタログに手を伸ばして、それから私を見つめた。さっきから緊張していたせいでまだ膝がガクガク震えている。
「もしかして寒い? 全身が震えてる。君こそ猫みたいだ。話が長いようだから、着替えてきていいよ」
市ヶ谷さんが心配そうに顔を覗きこんで、額に手をあてがう。彼の整った美貌に見惚れて、私は息を飲む。ふわりと桜の香りがして……眩暈がした。
ごまかされてしまったのかな。ブラジャーとショーツについての意見だとしても、答えてはくれないの?
逆撫でされて沸々とべつの気持ちが湧き上がってくる。