ひとまわり、それ以上の恋

 入社試験、入社式、オリエンテーション、新人研修、どれもが緊張に身を包んだ日々だったけれど、今日が一番ドキドキしているかもしれない。

 あれから一ヵ月の研修期間を終えて、いよいよ人事部長との面談――私の番がやってきたのだ。

 頭の中で思い浮かべていたのは、企画、開発、販売……活気づいた現場、カラフルな下着たち。

 でも、ここの社員である兄から希望通りに行くことの方が珍しいと聞いていたので、ある程度、覚悟はしていた。

 けれど、意外や意外……私が配属されたのは『秘書課』だった。

 私は、入社式で、悠然としている社長の側に仕えていた社長秘書の様子を思い浮かべ、不安になる。

 社会人としての基本的なビジネスマナーをはじめ、研修はしっかり叩きこんできたけど、秘書というのはまた別格に思えた。

「自信がないですか?」
 正直、秘書としての品格が私にあるとは思えない。一体、どういう基準で選んでいるのだろう。

「いえ、意外だったので……驚きました」
 理由を尋ねようとした矢先、人事部長はやんわりと微笑み握手を求めたので、私は言いたいことをごくんと飲み込むほかなかった。

「プライマリーの第一線ですよ。頑張ってください」

 もうこれは決定事項なのだ。それから私は叶わなかった希望がどうとかぐちゃぐちゃ考えていた気持ちを払って、人事部長の手をつよく握り返した。

「ありがとうございます。しっかり頑張りますので、これからもご指導よろしくお願いします」

 何より、ようやくプライマリーの社員として働けるということ。
 私の夢の扉は開かれたのだから。
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