ひとまわり、それ以上の恋
◆11、ゼロ・パーセント
掌に握りしめていたケータイがゴロンと転がったところで、ハッとする。
何をするわけでもなくリビングのソファでゴロゴロと転がったりうたた寝していたら、私と同じく休日家にいた兄に渋い顔をされてしまった。
「おまえ、さっきから猫じゃないんだから……どっか行ってくれば」
そんな兄は、これから彼女とデートにでも行くのか、いつになくお洒落してる。
「慣れない仕事でいっぱいいっぱいで……どこかに行こうっていう気持ちになれない。いいよねーお兄ちゃんは……彼女とラブラブみたいで。美羽さんと同期なんだったら、もう結婚してもいい年だもんね」
ぼやぼやする目を擦りながら何の気なしに言ったのだけど、
「おまえ、沢木とどうなってるんだ」
と、突然兄は見当違いなことを言いだした。
「沢木さんって、お兄ちゃんが同期で気に入らないって言ってた人なの?」
「べつに気に入らないわけじゃない。女にだらしないとこが許せないんだ」
「そんな目くじら立てなくたっていいじゃない」
沢木さんの味方をしているわけじゃないのに、兄にはそう聞こえたらしい。最終手段の反論がやってくる。
「今月末、父さんの命日だろ」
「なになに。結婚の報告でもするの?」
「バカ。大事なときにおまえになんかあったら、困るだろ」
私はそれを聞いて、市ヶ谷さんから言われたことを思い出した。
「恋……してる暇なんてないよ。新人には」
ソファのクッションを抱きしめながら、脚を交互にパタパタとストレッチする。兄に突っかかると話が長くなる。
「おまえがその気じゃなくても、あいつは――」
「もーうるさいったら。早く行って。彼女が待ってるんでしょ!」
兄はまだ何かを言いたいみたいだったけれど、私が徹底抗戦を見せると、仕方ないと言いたげに出かけて行った。