ひとまわり、それ以上の恋
デザイナーさんとの打ち合わせは、フレンチの個室で、ランチを一緒にしながら話をする予定だった。
駅までお迎えに行って、デザイナーさんの到着を待っていた私は、てっきり綺麗な女性像を思い浮かべていたのだけど、男性だと分かってびっくりした。
「初めまして。沢木優羽です」
たしかに綺麗だけど……。
ポカンとしていた私は、慌てて名刺をさしだし握手を交わした。
「……同じ沢木さんなら、彼をおススメするよ」
市ヶ谷さんが耳打ちしてくる。そんなこと言わなくたっていいのに。私の気持ちを知っててそういうのだったら、なんてひどい人なのだろう。
市ヶ谷さんの瞳の奥では、ほら僕はイイ男なんかじゃない、とでも言いたそうで、それがなんだか腹立たしかった。
「びっくりしました。女性の方だと思いこんでいたから」
「ええ。初めてお会いする方には、皆そう言われます」
にこやかに沢木優羽さんは微笑んだ。やわらかそうなパーマのかかった明るい髪、そこから覗く顔立ちは女好きするような気がする……と、いつか感じたデジャブは外れてはいなかった。
沢木優羽さんは、あの沢木さんのお兄さんなのだそう。おススメするよって、そういう意味だったんだ……と市ヶ谷さんをチラと見ても今度は知らないフリだった。