葵先輩は冷たい。
「莉子ちゃんのこと好きなくせに。」
「……うるさい。」
「"素直になれなくて"…か。」
確かにな。
なんて笑う神谷を、俺はまたギロリと睨んだ。
自分でも分かっているんだ。
不器用で、素直じゃないこと。
だから…
あの唄を作ったんだ。
唄の中でだけ、俺は素直に気持ちを伝えられるから。普段は言えないようなことまで、俺は歌詞に綴る。
でもきっと、莉子はそんなことに気付いていないだろう。
いつだって… 莉子は哀しそうに唄を聞きながら、途中で帰ってしまうのだから。
「なあ、神谷。」
「ん?」
「莉子、何か言ってた?」
ニヤニヤと俺を見てくる神谷の視線は無視して、俺はぼそりと呟く。
結局聞きたいのはそれで。
気になるのもそれ。
俺には何も話してくれないくせに、神谷には何でも話す莉子。これではどっちが彼氏なのか分からない。
でも本人にそんなガキみたいな本音を晒すのは少し気が引けて、今の俺には何にも気にしてない振りをするのが精一杯。
……かっこ悪いな、俺。