葵先輩は冷たい。
だんだんと人が集まって来て、騒がしくなる第1音楽室。
葵… と沢山の女の人に声をかけられては、葵先輩はその人達に微笑み返す。
呼吸の仕方を忘れる程、
胸が痛くて仕方なかった。
「あ、莉子ちゃん。」
プリーツスカートをぎゅっと握りしめた時、突然降ってきた声。
その人はあたしを莉子ちゃんと呼び、そして何気なくあたしの隣に立っていた。
「神谷先輩…」
葵先輩のお友達で。
あたしの相談相手でもある。
神谷先輩は葵先輩に負けないくらい格好良くて、あたしの話を真摯に聞いてくれる優しい人だ。
辛い時…
いつだって慰めてくれる。
そして、今も。
「葵、人気だね。」
「はい…」
「複雑?」
「……はい。」
あたしには見せない笑顔や、あたしに聞かせてはくれない優しい声を周りの女の子に惜しみなく向ける先輩。
複雑というか…
正直、哀しい。
でも、仕方ない。
仕方ない… ことなんだよ。