葵先輩は冷たい。
そう思わないと、あたしはきっと立つことすらままならない。
「神谷先輩…」
「ん?」
「なんで… 葵先輩はあたしなんかと付き合ってくれたんですかね。」
分からないよ。
好きじゃないくせに。
むしろ… 嫌いなくせに。
葵先輩の周りはいつだって女の人ばかりで。だけど、いくら遊んでいても… 先輩は今まで誰かと付き合ったことはなかった。
女は性欲処理であり、
付き合うのには面倒な存在。
それが…
噂で聞いた葵先輩の格言だった。
でもさ。葵先輩。
あたしは先輩とキスどころか手を繋いだことさえない。
ねえ葵先輩、あたしは…
性欲処理にもなれない存在ですか?
「莉子ちゃん…」
哀しそうにくしゃりと顔を歪めて、神谷先輩はあたしを見て困惑気味に笑った。
ほのかに香る神谷先輩の香水。
それは爽やかに…
空気に溶け込んだ。