蒼穹の誘惑
みずきは起き上がると、ブラウスのボタンを留め、捲りあがったスカートを直した。

「もう、皺になっちゃったじゃない!最悪!」

じゃあ、脱げばよかっただろう、脱がずに挿れてくれと懇願したのは誰だ、と高宮の目が言っている。

「ねぇ、クローゼットにあるプラダのスーツ取ってきて」

「黒のもので良いでしょうか?」

「イヤ!明るい色はないの?」

高宮のポーカーフェイスに呆れた色が出る。彼は故意に見せているのだ。

「社長、午後から浅野氏と商談が入っています。大事なです」

この秘書は敢えて語尾を強調する。

「それが何?自分のスケジュールくらい把握しているわよ」

「TPOをわきまえた服装にしてください」

高宮はクローゼットにかかっているクリーニングから返ってきたスーツの中から数点選ぶ。

「どれもイ・ヤ!」

スーツが嫌なわけではない。高宮の高圧的な口調が気に食わない。この秘書はいつも丁寧な敬語を使いながら、人を上から見下ろし嘲笑する。




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