蒼穹の誘惑
浅野は、幼い頃よりこの父と折り合いが合わず、大学進学と共に家を出ている。

反抗心から、離婚した母の性「浅野」を名乗り、無論父との関係は近い友人以外は、ここの社員すら知らない。

幸か不幸か、この父は離婚と再婚を繰り返し、4人の男児に恵まれた。

二番目の妻との間に生まれた、放蕩の限りを尽くしている三男の自分など、父は今まで気に留めたこともなかった。

マサチューセッツ工科大学を首席で卒業したときも、この会社を立ち上げたときですら、何も言わなかった父が一体自分に何の用があるというのだろうか。

自分がマンションに引き籠っていた間に家族に何かあったのかもしれない。

「兄さんに何かあったのですか?」

出来のいい長男さえいればいいのだろう、そんな嫌味も込めて尋ねた。

すると、目の前に壁のように立つ父は、ドカッと応接用のカウチに座り、声高々に笑い声を上げた。



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