蒼穹の誘惑
「今長谷川は、半導体部門も思わしくなく、赤字の家電部門は子会社化し、台湾企業に売り渡すそうだ」

「それは、存じています」

みずきからそのことについては聞いていた。採算のとれない部門は切り捨て、台湾企業との交渉を進めていると。

今後は、長谷川従来の専門分野である半導体部門とソフト開発に力を入れると宣言していた。

「いずれこのままでは、半導体部門も台湾か韓国企業に買収されるだろう。今年長谷川では大規模な組織改革が行われる。大幅な役員交代も起こるだろう」

「まさか……」

どこでそんな情報を……

言葉に詰まっていると、心を読んだように父は続ける。

「長谷川の副社長とは旧知の間柄だ。お前がこのことを知って長谷川に近づいたとは思えんが、絶妙のタイミングだったな」

「僕は、一介の技術者です。長谷川を手に入れるなど……」

「だからお前は甘いと言うのだ!」

父は、尻込みする息子を一喝した。




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