蒼穹の誘惑
まだ何も結論など出ていなかった。

彼女に伝えるべく言葉も、契約についても-----

手元にある大きな封筒と父から渡された書類を見つめ、浅野のキレイな顔が迷いに歪む。

その時、デスク上の内線が鳴った。

「長谷川みずき様が来られました」

「分かった。通してくれ」

浅野は手にした受話器を置き、大きくため息を漏らす。

すぐにドアが開かれ、そこには愛してやまないみずきの姿があった。

「浅野君、急にごめんなさいね」

流行る気持ちを抑え、みずきは悠然と微笑んだ。だが、その笑顔が痛々しく感じるのは気のせいではない。

それでも彼女の美しさは変わらなかった。

髪が乱れているのは急いでかけつけたからだろう。

少し顔色が悪いのは、寝ていないからかもしれない。

だが、そんな弱々しい彼女の姿が儚げで、また一層彼女に惹き込まれる所以となる。



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