蒼穹の誘惑
ソファに座るように勧められたみずきは、戸惑った。

浅野の反応が違う。いつもなら目を輝かせてみずきを受け入れてくれたのに今日はあの子犬のような瞳からは、何の感情も読み取れない。

前に座る浅野と視線が合ったとき、みずきは直観した。

遅かった、と-----

「あなたがどうしてここに来たかは大体検討がつきます。これでしょう?」

そう言って浅野は契約書を見せた。

「……そう、です」

「もうサインはしてあります。あとは社長印を押すだけだ」

「ありがとう、浅野君。これで-----」

「これで、僕はもう用無しですか?」

そう言葉をかぶせる浅野は、縋るようにみずきを見つめた。

みずきは、あぁ、全てが遅かったと、その瞬間悟ったのだった。



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