蒼穹の誘惑
久しぶりに会う姪に、幸子は大喜び。

子供のいない彼女は、幼い頃よりみずきを実の娘のようにかわいがってくれていた。

みずき自身も、家に寄り付かない母よりも、この優しい叔母に心を開いていた。だからこそ、幸子を巻き込むことは避けたかった。

だが、高見が既に動いている今、そんなことも言っていられない。

栄次郎にとって、妻幸子はアキレスの踵だ。

幸子は由緒正しい貴族の出身で、栄次郎とは政略結婚のようなものだったが、控えめで大人しい性格の彼女は栄次郎を支え続けてきた。

長谷川が半導体で成功を成したのも、彼女の実家である西園寺家からの融資があってこそだった。

帰宅した栄次郎をみずきが玄関ホールで出迎えた時の彼の表情はまさに、苦虫を噛み潰したようで、思わず噴き出してしまった。

「叔母様は何もしらないようですね?」そう小馬鹿にしたように笑う姪の生意気な態度に、栄次郎も怒りを露わにする。

直情的で単純、そんな風に叔父のことを侮っていたのかもしれない。

だから----その言葉の背後に潜む罠に気付かなかった。



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