蒼穹の誘惑

「時間がありません。着替えてください」



その誘惑的な声で、みずきを3秒で現実に引き戻す。

どうしました?と喉で笑うように高宮はみずきを見下ろした。

「わかっているわよっ!自分で履くから貸して!」

みずきは、高宮の腕を振りほどき、スカートをその手から奪い取った。

「最初から素直にそうしていただければ……」

気だるそうなその声色に、みずきの負けず嫌いな性格が反応する。

「浅野氏との商談は何時から?」

「12時半からです。お昼を兼ねてとのことですが?」

「そう。少し早く出ます。車を回して」

「はい。どちらか寄られるのですか?」

「クス、内緒♪」

先程と同様イヤな予感がする。こんな顔をするみずきは何か企んでいるのだ。

「社長、商談にはちゃんと行かれますよね?」

「もちろん行くわよ。このソフト開発にはとても大事な人よ。それにあの浅野君でしょ?」

一瞬高宮の顔が引きつる。この人はまた何か余計なことを考えている。

そんな高宮の杞憂もどこ吹く風、みずきは意味深に微笑み、お気に入りのオーバーニ―のレースストッキングを履いた。




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