蒼穹の誘惑
マンションに帰る車の中で浅野に連絡をしようとしたが、何度も携帯にかけても繋がらない。

無機質に繰り返されるオペレーターの声がみずきの不安を一層駆り立てた。

時間は夜の8時を過ぎている。しかも金曜の夜だ。プライベートな時間だから電源を切っているのかもしれない、そう言い聞かせて早鐘を打つ心臓を落ち着かせた。

一昨日の夜は、浅野は既にみずきの虜だった。

万事うまくいっていたはずだ。

副社長とはいえ、昨日今日の二日間で何ができるというのだろうか----

ただの脅しであって欲しい、そう願うばかりだった。

苛立ちと不安に眠れぬ夜を過ごしたみずきに、留守電を聞いた浅野が電話をかけてきたのが、日曜日の正午近くだった。

とりあえず、無理を承知で浅野とのアポを取り、単身で浅野のオフィスまで出向いたのだった。

そして今-----

不安が的中したことを悟る。



< 202 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop