蒼穹の誘惑
「みずきさん、あなたは誰にも見せたことのないような顔で彼のキスに応えていた」

「違うわ、浅野君、彼と私はただの……」

「ただの何?あなたは彼を愛している。僕はすぐに分かった。みずきさん、僕はこの写真の男たちの内の一人でもいい、あなたがいつか僕に心を開いてくれるまで待とうと思った。でも、あなたの心はすでに他の男のものだったんだ……」

「わ、私は……」

弁解をしようとしてみずきは言葉に詰まる。

この真っ直ぐな瞳の前ではどんなに自分の気持ちを誤魔化しても無駄だ。

「あなたが好きです。こんなにも好きなのに……」

「-----ごめんなさい」

声を振り絞り言えたのは、そんなひと言だけだった。

膝の上でぎゅっと握られた手にそっと触れようとして、その手は弾かれた。

「触るなっ!謝るということは認めるんですね?」

「…………」

否定してほしかったな、と呟く彼に弾かれた手よりも胸が痛んだ。



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