蒼穹の誘惑
「大丈夫ですか?」

浅野は震えるみずきの身体を支え、ソファの上に座らせると、感情を押し殺した瞳でみずきを見下ろす。

「先ほど、みずきさんが来られる前に長谷川の副社長から電話がありました。どこで僕のプライベートナンバーを手にいれたのか……」

浅野は忌々しいとでも言うように顔を歪める。

「何て……副社長は何て言っていたの?」

呼吸を整えながら、みずきは縋るように浅野に詰め寄った。

「どうしてそんなに慌てるのですか?」

「判っているのでしょう?彼は何て言ってきたの?要求は何?」

「それは、言えません。ただ、みずきさん、急いで会社に戻った方がいい。手遅れになる前に」

「どう、いう意味?」

「あなたの叔父上はあなたが思っている以上に狡猾で手強いということです。僕の本意ではなかった。こんなことはしたくなかった……」

浅野は視線を足元に落とし、苦しそうに言葉を吐き出す。

恐らく彼の言葉に嘘はない。

彼の本意ではなかったと……


(一体何が起こっているの?)


みずきは、フラつく身体を支えながら、追い立てられるように浅野のオフィスを後にした。


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