蒼穹の誘惑
会社へ戻る車の中、みずきはすぐに高宮に電話をかけようとスマホを取り出し、思い留まった。


(彼に電話をかけてどうなるというの?何を必死になっているのよ……)


誰かが自分を陥れようとしている。

それは、信頼していた秘書であり、みずきの肉親でもある叔父に。

シートに身体を預ければ、一気に疲れと虚無感がみずきを襲った。

それは、少しあいた隙間から徐々に浸透し、みずきの心を深く浸食する。

自分は今更何を足掻こうとしているのだろうか。

別に父の跡など継ぎたくなかった。

無理矢理ニューヨークから呼び戻され、病院のベッドの上で父と二年振りの再会をしたかと思えば、その一週間後に遺言状を突き付けられた。

そもそも、面白そうだからゲーム感覚で話に乗っただけだ。

自分は何を証明したくて、一年間頑張ってきたのだろうか。

負けを認めるのは悔しいが、さっさとこんな面倒なもの手放してニューヨークでの悠々自適な生活に戻ればいい。

誰も自分が社長であることを求めていない-----

そう考えてしまうと、全てが馬鹿らしくなった。



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