蒼穹の誘惑
栄次郎はみずきを簡単に飼い馴らせる傀儡になると思っていたのだろう。

妻の幸子に懐いていることも、計算に入れていたにちがいない。

だが、その思惑に反して、みずきは一切栄次郎を頼らず、寧ろ蔑にした。社長という名のイスに大人しく座り、ニコニコ笑っているだけのかわいいお人形----というわけにはいかなかった。

そして、業を煮やした彼は、一年待ち、行動に出た。

高宮を手中に納められ、自分はいいように操られていた。

『高宮は会社の利益を重要視する』と栄次郎は言った。

暗に考えれば、自分は高宮にとって、「社の利益を害する者」ということだ。


(やはり社長としても見限られたということ?)


これから自分はどうなるのだろうか。

一抹の不安がみずきを襲う。

栄次郎の持つカードは浅野を退けるほどのもので、それはみずきにとっても脅威となるものに違いない。

みずきは押し寄せる不安に心が千切れそうになったが、彼女を乗せた車は無情にも会社の目の前に来ていた。



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