蒼穹の誘惑
いつものように車を降り、会社のエントランスの前に立ったとき、みずきの意志は決まっていた。

白旗を上げる前に、やらなければいけないことがある。

このまま尻尾を振って退散するのは、やはり性に合わない。

ゲームはまだ終わっていない。

サイは投げられた----

それを受けるも、逃げるも自分次第だ。

プレイグランドの観衆の中には、みずきの味方は誰一人いないのかもしれない。

だが、ここで逃げてしまっては、今までの自分の生き方が否定されるような気がしたから。

両親が離婚し、父の元に残ると決めた時点で自分の人生は決まっていたのかもしれない。

世間一般に求められる小さな『幸せ』を諦めたときから、自分の人生の意義を探すように、贅を尽くし楽しんだ。

勉強も恋愛も仕事も全てゲームの一環、勝者のみがその喜びを知る。

ならば、自分は勝者になってみせよう。

自分が生きてきた三十年間を否定したくない、どんなことがあっても、長谷川みずきらしくありたい、そう決意し、会社のエントランスを颯爽と突き進んだのだった。



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