蒼穹の誘惑
わからないことだらけだ。

自分が、悲しみに打ちひしがれて、全てを投げ出すとでも思ったのだろうか。

あながちそれは、『あまりにも単純』と笑えなかった。

現に、車の中では一瞬迷ったのだから。

業務委託している証券会社から送られてきた資料をぼんやりとチェックしていると、一つの会社名がみずきの目に留まる。

ここ数か月、長谷川の株を買いに走っている会社がある。

ウィストン・マイクロテクノロジー・コーポレーション-----

台湾企業だが聞いたことのない会社だ。社名からしてパソコン機器関連の会社と推測する。

多額ではないが、不定期に購入を繰り返し、遡ると、2年ほどそれが続いている。

すばやくそのページをプリントアウトする。

ゾクリとするような嫌な予感がした。

背中を伝う汗に、急激な疲労感を感じたとき、パチッと社長室の電気がつけられた。

眩しさに目を瞬かせていると、不機嫌な声が聞こえてくる。

「こんな遅くまで電気もつけずに……」

声のする方向に視線を向ければ、高宮がドアにもたれ掛るように立っていた。

気づけば時計は8時を差し、デスクトップのライトひとつで5時間も集中していたようだ。



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