蒼穹の誘惑
「まだ帰られないのですか?」

「ええ、言ったはずよ、今日は遅くなるから先に帰っていいと。個人的な調べものだから気にしないで」

「あなたがそんな勤勉家だとは思いもしませんでしたよ」

「個人的だと言ったでしょう?」

近づいてくる高宮を視線の端で捉えながら、素早く今見ていた画面を閉じる。

「調べ物は終わったのですか?」

「知りたいことはだいたい分かったわ」

「そうですか。まだ残られるのですか?」

「ええ、もう少しね……高宮君、お疲れ様」

『この部屋から出ていけ』そんな意思表示を含めてにっこりと笑う。

高宮は何も答えず、みずきの傍に立つ。

ただそれだけのことに、みずきの半身は一気に熱を持ったように熱くなった。

努めて冷静を装い、座ったまま椅子を回転させ、彼と向き合う。

「何か用?先週で満足したんでしょ?それともあんな短いセックスではたりなかった?」

敢えて挑戦的に言った。

残された僅かなプライドがそうさせたのかもしれない。

最後まで彼の望む、『高慢で我儘なお嬢様』を演じて見せよう。想いを寄せる男に縋るような惨めな女にはなりたくない、そんな想いがあった。



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