蒼穹の誘惑
みずきは高宮の言葉をあえて無視し、ワンピースを選ぶ。

「社長、浅野氏を待たせる気ですか?」

「ねぇ?白とブルー、どっちがいい?もうちょっと短い方がいいかしら?」

「どちらも良くお似合いです」

高宮は興味がなさそうに答え、時計を指さしてみせた。

「もう、ゆっくり選ばせてよ!」

「ですが、もうすぐ浅野氏との約束の時間です。あなたは彼とビジネスランチをするのであって銀座ホステスの同伴ではないのですよ?」

「あら?いいじゃない?肩っ苦しいおばさんスーツ着ている女より、胸元の開いたセクシーなワンピースを着ている方が商談もまとまりやすいわ。何よ、妬いてるの?」

「あなたの品位を下げないことだ」

高宮は辟易とした顔で答える。

「女が美しくして何が悪いのよ?しかも今からいい男と会うのに?」

そう言ってみずきは真っ白な胸元の開いたワンピースを選んだ。袖は薄いサテン生地がレイヤーのように重なり、彼女の細い腕をを更に際立たせた。身体のラインがびったりと出るマーメードラインだが、みずきが着ると厭らしく感じない。

「これ、着ていくわ。このパンプスも一緒にお願い?」

フィッティングルームから出てきたみずきはまるでファッション誌から飛び出たモデルのようだった。豊かな胸元を見せ、肌はまるで十代の娘のような瑞々しさをたたえ、他の客の視線を釘付けにした。

「うん、悪くないわ」

「では、行きましょうか?」

高宮は脱いだスーツとパンプスを受け取り、げんなりする気持ちでドアへと向かった。
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