蒼穹の誘惑
「-----高宮、君?」

「今お時間大丈夫ですか?」

「え、ええ……」

彼の声を聴くだけで、心にじわじわとこみ上げてくるものがある。

あぁ、やっぱり自分はまだ彼のことが好きなのだ、そう思い知る。

今まで彼が「みずきさん」と名前で呼ぶことはなかった。身体を重ねていたときは、みずきは無意識に高宮のことを「蒼冴」と呼ぶことはあったが、彼はいつも彼女のことを「社長」と呼んでいた。

最早、みずきは彼の社長でも何でもないのだから、名前で呼ぶしかないのだが、初めて「みずきさん」と耳元で擽るように呼ばれ、年甲斐もなく頬が紅潮する。

一からスタートしなおそうと決心したが、思春期までやり直すつもりはない。そう自分に言い聞かせるが、逸る胸の内をどうすることもできない。



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