蒼穹の誘惑
「そうね、私が知る必要の無いことだわ。電話で話したのは二週間前。その様子からはいつもとは何も変わらなかったわ。それで満足かしら?」

先ほど、全てのことを忘れ、一からスタートさせようと誓ったのだ。首を突っ込むべきではない、そう心に言い聞かせた。

「はい。ありがとうございました」

「要件はこれだけ?」

早く通話を切らなければ、そんな切羽詰まった思いが伝わったのか、電話越しから盛大な溜息が聞こえてきた。

「みずきさん……」

そんな声で呼ばないで欲しい。

この期に及んでどうしてそんな優しく人の名前を呼ぶのだろうか。

「来週、ニューヨークに経たれるそうですね?」

「ええ」

「見送りには行けませんが、お元気で-----」

「……っ……」



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