蒼穹の誘惑
彼にとっては他愛もない社交辞令にすぎない。

それなのに、どこか優しく響くその声に、自然と涙が溢れた。

頬を伝うその水滴を髪からの滴だと誤魔化し、声を振り絞る。

「ありがとう。高宮君も-----」

もう通話を終えなければいけない。それなのに、もう一度最後に名前で呼ばれたくて、スマホをぎゅっと握りしめた。

「みずきさん-----?」

電話越しに彼はひどく切なく名前を呼ぶ。願っていたことなのに、その声を再度聞いた瞬間、苦しさに心が泣きそうになる。

「な、に-----?」

声は震えてないだろうか-----

「そんな恰好で……風邪をひく前に中に入ってください」

「-----え?」


(そんな恰好って……どう、して知っているの?)




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