蒼穹の誘惑
反射的にエントランス下から出て辺りを見渡すが、雨が降りしきる中では視界も悪く、水飛沫を上げて行き交う車に阻まれる。

「それでは-----」

「待って……高宮君、たか-----」

みずきが高宮の名前を呼ぶも虚しく、通話はそのまま途切れた。

スマホを握りしめたまま、みずきはその場から動くことができず、立ち尽くした。

最後の最後まで何とひどい男なのだろうか。

このまま放っておいてくれたら良かったのに。

一からスタートし直そう、そう決めた矢先に、あんな風に名前で呼ぶなんて、残酷すぎる。

これも彼の復讐のうちの一つなのだろうか-----

それならば、彼は見事に成功した。

このまま彼への想いも洗い流してしまって欲しい、そう願いながら、みずきは降りしきる雨のシャワーを甘受した。



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