蒼穹の誘惑
栄次郎は忌々しい気持ちで社長室を見渡した。

みずきがあつらえた鬱陶しいイタリア製の応接セットやデスクは全て変えさせた。

一ヶ月も経つというのにまだあの娘の甘ったるい香りがしそうで、反吐が出そうになったが、今はそれどころではない。

「立ち話もなんですから、どうぞお座りください」

「ゆっくり座ってなどいられるかっ!!」

高宮の余裕の態度にまた怒りが心頭する。

実の姪を社長の椅子から引きずり下ろし、もう少しで兄と共に築いた帝国を手に入れることができるはずだった。

みずきが去った今、実権はほぼ自分にあるが、来週開催される株主総会で承認を経て、改めて代表取締役社長に任命されるはずたった。

「どういうことだ!?」

「そんなに息を荒くなさってどうなさいましたか?」

「私の妻の名義の株はどうした?」

唸るような声で尋ねれば、目の前に立つ男は、全く動じずただ首をかしげている。



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