蒼穹の誘惑
「失礼します」

みずきは先程の重い表情から一転し、入室してきた秘書に、いつもと変わらない『社長』の顔を向ける。

「クス、いちいちノックしなくてもいいわよ。返事するのも面倒だわ」

「そういう訳にはいきません。あなたは一応社長ですから」

少し呆れた視線でみずきを見やるが、いつも馴れたやりとりなのだろう、秘書の肩書きを持つこの男高宮蒼冴(タカミヤソウゴ)は、平然とみずきに向かって軽口を叩く。

「で、高宮君、準備はできた?」

「はい。場所ですが、会議はここで宜しいですか?」

「そうね、今日は私を入れて6人だけだし、書類やパソコンを運ぶのも面倒だわ。ここに準備して」

「はい、了解しました」

高宮と呼ばれたこの男は、軽く頭を下げると素早く取締役会議の準備に入る。

パソコン、モニターを手際良く設置し、書類を並べた。

高宮が作成した書類に目を通しながら、これから二時間は束縛される会議のことを思うと、辟易した。


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