蒼穹の誘惑
みずきは苛立ちを抑えることができず、手にしていた書類を思いっきり高宮に投げつけ、一人車を降りた。


(信じらんないっ!あの変態!)


後に続く高宮を振り返ることもなく、みずきはホテルの化粧室へと逃げ込んだ。

今から商談だというのに、あの秘書の考えていることが理解できない。

だが、ふと鏡に映る自分に視線を移せば、確かに頬が蒸気して赤い。


『今のあなたはとても魅力的ですよ』


高宮の言葉が頭をよぎる。

確かにこれくらい色気がある方が、自分的にはいい、とつい思ってしまう。

浅はかではあるが、焦れたままでいる方が背筋がゾクゾクして興奮しているような気がする。

化粧を軽く直し、そのままホールへと戻ると、そこには、秘書の顔に戻った高宮が「早くしてください」と言わんばかりに視線で、みずきをエレベーターへと促した。


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