蒼穹の誘惑
(1)
高宮は法定速度を遥かに超えたスピードで目的地へと向かっていた。
都心から河口湖までは、渋滞していなければ、高速で2時間もかからずに着くが、片桐のマンションへ寄っていたため、大幅に時間をロスした。
抑えきれない苛立ちから、アクセルに置く足に力が入る。
高宮の車は、高速を降りても、速度を変えず山道をひたすら進んだ。
頭の中に叩き込んだ地図では、目的地まであと5分程といったとこだ。逸る心を落ち着かせようと、タバコを手にした時、携帯の着信音が突如鳴り響いた。
高宮は軽く舌打ちし、ヘッドセットをつける。
「はい、高宮です」
『今どこにいる?』
最初にかかってきた電話とは異なった声質に変えてあるようだ。
その姑息さに、何の意味があるのだろうかと皮肉った笑いがこみあげてくる。
相手は余りにも自分を侮りすぎている。ここはひとつ揺さぶりをかけてやろうかと、高宮は敢えて何も答えなかった。