蒼穹の誘惑
『答えろ』

機械で音声を変えてあっても、相手の声が少し怒気を孕んでいるのを感じる。

「この携帯にかけてきた時点で、私の行動は把握しているのではないのですか?」

高宮は試すように答える。

発信器も盗聴器も高宮の車にはついてなかった。

高宮の携帯はGPS追跡ができないようになっている。アメリカの軍事システムにでもハッキングしない限り、特定することは無理だ。

会社を出てからも、常に周囲に注意を払っていたが、尾行されている様子もなかった。

『……質問の答えになっていない』

返答にすこし間があったが、それをどう捉えるか―――

これ以上相手を怒らせてもこちらが不利になると判断し、高宮は素直に答えることにした。

「あと5分程で着きます」

『途中に赤色の屋根のログハウスがある。車はそこに置いてこい。200メートル程歩けば小さな山小屋がある。その中に入れ』

相手はそう素早く伝えると、高宮の返事を聞くこともなく会話を強制的に終了した。



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