蒼穹の誘惑
栄次郎に至っても、理由は容易に考えられるが、これもまた安直な考えだ。

栄次郎からしたら、自分は裏切り者だ。もう少しで手にすることができた社長の椅子だけでなく、副社長の座も奪われ、隠居生活を強いられることになった。

栄次郎の横領証拠は高宮が持っている。恐らく狙いはそれだろう。

だが、実の姪をプロを雇ってまで誘拐するだろうか。

しかも富士宮まで呼び寄せて―――

自分が応じず、みずきを見捨てるという可能性を考えなかったのだろうか。

あの愚鈍な栄次郎が、全て計算で動いているかは、疑問だ。

あまりにも釈然としないことが多すぎる。

みずきと交際があった男や、長谷川に恨みを持つ会社関係など、あらゆる可能性を考えてみたが、高宮本人を指定してきたという事実から、辿り着くのは、どうしてもこの二人になった。



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