蒼穹の誘惑
指定されたログハウスに着くと、高宮はエンジンを止め車のライトを消した。

ドアを開け、辺りを見渡せば、他に建物らしきものはなく、鬱蒼とした原始林に囲まれている。ここは青木ヶ原樹海からは逸れているが、少し道を外れれば、元の場所に戻ることは容易ではない。

暗闇の中へと続く一本の遊歩道が、まるで「お前にはこの選択しかない」と暗示するかのように伸びていた。

神経を研ぎ澄ませるが、見張りらしき人影も気配もない。

高宮は、外灯一つない道を、懐中電灯も持たず、木々の間から漏れる月の明りだけを頼りにゆっくりと進んだ。

昼間であれば、最高の森林浴を楽しめただろう。だが、虫の音一つ聞こえてこない、この静寂な森は、不気味としか言いようがない。

しばらく歩くと、小さな山小屋らしき建物が見えてきた。

もう一度細部に渡り注意を払う。足音は聞こえてこないが、この暗さだと、どこから監視されているかも分からない。

高宮は、ドアの前に立つと、軽く一呼吸置く。

窓一つないこの小屋では、外から伺うこともできない。

念の為、軽くノックしてみるが、暫くたっても返事がないので、ドアノブを回し、指示された通り、中へと入った。



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