蒼穹の誘惑
支配人に椅子を引かれ、みずきは浅野の前に座る。みずきを前にし、彼は少し緊張しているようだ。

ソムリエにアペリティフ(食前酒)を尋ねられ、浅野ははっと我に返る。みずきの美しさにまた目を盗られていたようだ。

「僕はあまりお酒が強くないので、スプリッツアーでお願いします。長谷川社長は?」

「あら、以外ですね?私はキールロワイヤルで」

みずきは男性を立てるということをしない。本来なら、ここで一緒にスプリッツアーをオーダーするか、アルコール類を控えるところだが、今日の彼女はシャンパーニュの気分なのだ。

「おなかぺこぺこだわ。早く始めましょう?」

そう言ってみずきは子供っぽく笑って見せた。格式ばった席でのこのような台詞が許されるのも彼女ならではだ。だが、これも彼女の計算なのである。

そして----

支配人とソムリエが席を外すと、みずきの一人劇場が始まる。


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