雛結び
 その後ろに付き従いながら、私も夜美と同じ言葉を繰り返した。

 炬燵に入りながら、夜美と二人で飾り終えた、私の右斜め前、夜美の席の真後ろのお雛様を眺める。夜美のお雛様は七段飾りでもの凄く立派だ。
「彩月ちゃんは紅茶が良いかな?それともコーヒーが良い?」
 台所の方から、夜美の声が聞こえる。夜美の高い声は、静かな室内に良く響く。
「紅茶でお願い」
 私の声はそれほど高くないので、夜美の高い声は羨ましくもある。夜美の外見に合う、軽やかな声だといつも思う。
「私はコーヒー。あ、甘酒もあるよ。一緒に持っていくね」
 暫くすると、制服の上からひよこのあしらわれた見慣れたエプロンをした夜美が、珈琲と紅茶、甘酒と、帰りに買ってきたケーキをそれぞれお皿にのせて、お盆で持ってきてくれた。
「夜美は甘いもの好きな割にはコーヒーはブラックで飲めるよね。私には無理」
 いつも通り、お盆には私の分の砂糖とミルクしかのっていなかった。
「えーそう?ケーキは甘いから飲み物は甘くなくても平気なんだよねー変かな?」
 持ってきたものを炬燵の上に置き換えながら、夜美が上目遣いで聞いてくる。こういう仕草は夜美に良く似合う。
「いや、それもまた夜美らしさかなと思うし、良いと思うよ」
 ブラックを飲んで苦そうにしている夜美は既に、私の中では想像もつかない。
「えへへ、ありがと」
 夜美は意外と何でも平然と越えて行ってしまうタイプかなと思う。夜美が自分の席に改めて座る。
「夜美、誕生日おめでとう。これプレゼント」
 私は、手のひらサイズの小さな包みを夜美に手渡す。
「わ、ありがとう。今年はどんなのかなあ」
 そう言って、夜美は嬉しそうに笑う。
「開けてみて。今年もこないだ見せてもらった着物の柄に合わせたよ。夜美とあの振袖には良く似合うと思う」
 私の言葉に促されて、夜美はその包みを開ける。
「わ、可愛い」
 小さな水色の、五枚の花びらの花簪。毎年簪を送っているけれど、今回は四年間アイデアを温めて、今日という日に合わせて、夜美の為に選んだ。色々な想いを込めて。
「ありがとう、いつも通りにひな祭りの時に付けるね」
 この喜びの笑顔は、今は私だけのもの。いつか、私以外……にも見せるのだろうか。

 いつものフォークで、お気に入りのオペラをつつきながら、ミルフィーユを崩しながら満面の笑みで口に運ぶ夜美を眺める。
< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop