雛結び
 なんか変だ、話が噛み合ってるのか食い違ってるのか良く解らない。その後の一言は二人共同じだった。
『ちょっと待って、話が噛み合ってない!誰が誰に?!』

「えーと、つまり音無先輩には日頃のお礼をしただけと」
 未だ胸元から離して貰えない状態で、出てきた断片的な情報から、夜美が話をまとめ始める。
「で、彩月は私に好きな人が出来たと思っていたと。で、その相手は陽子ちゃんだと」
 自分の心の内を自分の前でさらけ出されていくのは、なんとも気恥ずかしい。
「はい、その通りです」
 頭上から呆れたようなため息と、夜美の声が聞こえる。
「はあ、どこをどうしたらそんな勘違いを。私だって陽子ちゃんには日頃のお礼をしただけなのに」
 そうだったのか。でも何のお礼だろう。
「日頃って、何のお礼?」
「うーん。まあ、良いか私も正直に言う。彩月のことに決まってるじゃない。最近元気なかったりするし」
 何と、そういう事でしたか。
「そういう事だったとは、でも何か陽子さんのこと特別な目で見てたりとかしてたじゃない?特に髪とか」
「ああ、それは陽子ちゃんの髪凄く綺麗だから、誰かさんの髪と同じでね」
 そう言って、抱き締めたままの私の髪を夜美は優しく撫でる。
「手入れの仕方とか、教えてもらってたんだよ。最近彩月は触らせてくれなかったけど」
「そ、それは。陽子さんに勝てないとか何とか気持ちの置所が色々と…」
 最後ははっきりしない感じになった。何とも。
「何言ってるのか。彩月の髪は昔から陽子ちゃんと同じぐらいに綺麗じゃない。四年前に、大好きって言ったのも、私のものって言ったのも忘れたの?おバカさんね」
 そうでしたか、それはすっかり忘れていました。でも、確かに四年前からほとんど切らなくなっていた気がする。それがきっかけだったか。
「申し訳ない、すっかり忘れていました。返す言葉もございません」
「私のために伸ばしてくれているのかと思ってたらさ、最近触らせてくれなくなって、先輩が出てきて色々考えちゃったのよねー。だって、彩月ああいうタイプ好きでしょ。私に似てるもの。音無先輩」
 ああ、そこは良く解っていらっしゃる。さすが、夜美。でも一つ間違い。
「そうだね。でも、夜美より音無先輩を好きになることはないよ絶対に」
「いつもそう言ってくれていれば勘違いなんかしないのに。毎日ずっと一緒にいるのに、私もだけど、言葉が足りないね。彩月は」
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