魔王
 
 
同時刻。

職員室前の廊下では、一人頭を抱える魔王の姿が。

その目は苛立ちに彩られ、その表情からは苦悩の色が滲み出ている。

「くそ…なんだ今年は…厄年か?下手すりゃ減給…じゃないや。不登校を出しかねんぞ…」

そう言う彼の声音には…、やはり疲れているような響きがあった。


数分前。

悠楽にかかってきた電話は、3-5の生徒、森岡 千鶴(もりおか ちづる)の母親からだった。

『先生、あの…娘の事でなのですが…さっきたまたま部屋に入ったら、壊れた万年筆が見つかって…しかもそれが…』

『娘が一番大切にしていた物なんです…。それに、無理やり壊されたような跡があって…。先生、何か心当たる事はありませんか?』


結論から言うと、心当たりは無かった。

森岡千鶴は3-5にしては珍しく一般的な生徒で、間違っても人の恨みを買うような行動はしていない筈だ。

ハッキリ言って訳がわからない。

「とりあえず、教室戻ったら個人的に聞いてみるか…」

そう思い、悠楽は廊下を歩き始めた。

足取りは、重かった。


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