魔王
「アンタ何いきなり無関係の人に振ってんのよ!ごめんなさい千鶴ちゃん、代わりにコイツ殴っていいわよ」

「いや~ちょ、俺は良くな…いたっ!イタタタタ!!頭皮頭皮頭皮!禿げるってぜってェ禿げるって!」

言いながら、香奈はぐいぐいと龍の髪の毛を掴んで引き寄せる。

痛みと頭皮へのダメージの心配で身動きが取れない龍の頭が、千鶴の手の届く位置に持っていかれた。

うっすら目に涙を浮かべる龍に対し真っ先に千鶴が思った事、そして発した言葉はーー、


「あの…痛そうだから離してあげたら?」


…………なんと一般的で優しさに満ちあふれた感想だろうか。

3-5の生徒に慣れた者なら素直にそう感じた事だろう。

それはこの二人も然りである。

「…千鶴ちゃん。貴女はいい子ね」

「俺、人の優しさを感じたのなんざ何年ぶりだろう」

香奈は感極まったような顔をし、龍に至っては先程とは別種の涙を浮かべる始末。

普通と思われる言葉でここまで感動された事に戸惑う千鶴だったが…、

突如として思考は、バン!という大きな音によって遮断された。

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