魔王
「…わざわざ呼び出すまでも無かったか?…なあ、森岡」
その音。
聞き慣れた、低いが冷たくはない担任の声が、空気を介して千鶴の鼓膜を震わせる。
声音がいつもより若干優しい気がする。
精神状態のせいかもしれないが、彼女にはそう感じられた。
が、今に限ってそれは逆効果となる。
「…知ってたんですか」
冷たい声を出した。
自分でもそう思った。
「今日の給食の時間、お前の母親から電話が入ってな。…フラれたとかそういう内容じゃないから安心しろよ」
「お母さん、何て言ってましたか」
「娘の物が壊された痕跡があるんで、何か無いか確かめてくれと」
何故か今日は担任の声が苛立たしい。
いつもはそんな事ない筈なのに。
何故なのか自分でもわからない。
その事実が余計に彼女を苛立たせる。