魔王
千鶴は立ち上がり、涙を手で拭きながら悠楽に向き直った。

「先生は…私を問い詰めに来たんですか」

「違う」

即答だった。

短いが故に、力と説得力のある否定。

「誰にやられたとか下らねえ事を聞くつもりはさらさら無いさ。学校は警察じゃあ無い。これまで何度も言われたろ?」

「じゃあ何しに来たんですか」

最早悠楽を一直線に見つめる瞳に、涙など浮かんではいない。

浮かんでいる感情は、苛立ち。

ただ一つ。

「俺は、お前の意志を聞きに来た。森岡、お前がどうしたいか。どうしたくないか。詮索するなと言われればそれまでだし、助けてくれと言われればできる範囲で俺がなんとかしてやる」

「私は…。…」

一瞬、千鶴の視線が揺らいだ。

が、それも一瞬の話。

すぐに挑むような目を取り戻し、言葉と共にそれを悠楽に向ける。

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